大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和53年(う)1253号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人前田産雄を懲役六月に被告人岩脇敏夫を懲役四月に各処する。

この裁判確定の日から、被告人前田産雄に対し三年間、被告人岩脇敏夫に対し二年間、それぞれその刑の執行を猶予する。

理由

本件控訴の趣意は、東京高等検察庁検察官検事井手昭正提出の控訴趣意書に記載されたとおりであり、これに対する答弁は、弁護人成田健治、同鈴木秀男が連名で提出した答弁書に記載されたとおりであるから、これらを引用する。

所論の要旨は下記のとおりである。すなわち、原判決は「被告人両名は、共謀のうえ、共同して、昭和五二年六月五日、別紙一覧表記載のとおり、東京都中野区江古田一丁目一二番二号付近路上ほか二一か所において、同区江古田一丁目一二番二号本山寅蔵方掲示板ほか二一か所に掲示されていた日本共産党所有にかかる縦59.4センチメートル、横42.5センチメートルの日本共産党演説会告知用ポスター合計二四枚に、それぞれ「殺人者」又は「人殺し」と黒色で印刷された縦一八センチメートル、横七センチメートルの糊つきシール又は「宮本顕治は殺人者」と赤色で押捺された縦一六センチメートル、横三センチメートルの糊つきシール合計四六枚を、一枚ないし三枚ずつ貼りつけて右各ポスターの効用を滅却し、もつて数人共同して器物を損壊したものである。」との、暴力行為等処罰に関する法律一条違反の公訴事実につき、被告人両名が共同して前記の日時場所において前記の日本共産党演説会告知用ポスター(以下「本件各ポスター」という。)に前記各シールを貼付した事実を認めるとともに、被告人らの右行為をもつて本件各ポスターの効用を滅却したものと判断しながら、本件各ポスターはいずれも公職選挙法(以下「公選法」という。)一二九条及び一四三条に違反して掲示されたポスターであるから、暴力行為等処罰に関する法律一条により刑が加重されている刑法二六一条の器物損壊罪における保護の対象に値するとみることは困難であるとの理由により、被告人両名に対しいずれも無罪を言い渡した。しかし、原判決が本件各ポスターの掲示を公選法に違反すると断定したのは、公選法一二九条及び一四三条に関する解釈、適用を誤つた疑いがあるが、その点はさておき、仮りに、本件各ポスターが公選法の上記各条に違反するとしても、刑法二六一条にいう器物損壊罪は、公文書、私文書、建造物等を除く器物一般をひろく保護する規定であるから、その保護の対象になる文書図画を公選法上も適法なものに限定すると解すべき理由は毫末も存しないところ、被告人らの所為は日本共産党が所有する各ポスターを、爾後掲示しがたい状態にして効用を滅却したものというべきであるから、器物損壊罪にあたること、従つて、これを共同して行つた被告人両名につき暴力行為等処罰に関する法律違反の罪が成立することは明白であるのに、これを看過して、被告人らに対して無罪を宣告した原判決は、この点で法令の解釈及びその適用を誤つたものであり、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかである、というのである。

そこで原審の記録及び証拠物を検討し、関係各証拠を総合すれば、

(一)  被告人前田産雄は、昭和四六年三月ころ国民道義の確立、民族的誇りの昂揚、共産主義侵略に対する徹底的抗争等を綱領とする日本革新党の党員となり、昭和五二年一月ころからはその関東地区本部青年行動隊総隊長として、被告人岩脇敏夫は、昭和四八年一一月ころ同党に入党し、昭和五二年四月ころからはその関東地区本部青年行動隊長として、いずれも同党のために活動を続けていたものであるが、民社党の当時の委員長春日一幸が日本共産党中央委員会幹部会委員長である宮本顕治のいわゆるリンチ殺人事件を国会の問題として持ち出したりなどしたことから、右事件が社会の関心を集めていた矢先である同年六月ころ、右宮本委員長が同年七月一〇日施行の第一一回参議院議員通常選挙に立候補する予定であるとの情報を聞知するや、かかる疑惑のある人物が参議院議員になつて国政にたずさわるのは論外であり、許されるべきではないと考えていたところ、同人の肖像写真入りの演説会のポスターが都内各所の街頭に貼られているのを見掛けるに及び、被告人前田において「殺人者」、「人殺し」又は「宮本顕治は殺人者」と表示した糊つきシールを右ポスターに貼付して、これを見る人に対し、宮本顕治の右疑惑につき注意を喚起しようと企て、上記各シールを作成準備した後、相被告人岩脇敏夫にこれを打ちあけてその賛成をえ、茲に被告人両名は互に意思を通じたうえ、共同して、同年六月五日、別紙一覧表の犯行場所欄記載の各場所にそれぞれ掲示されていた日本共産党所有の本件各ポスター合計二四枚に対し、右糊つき各シールを、同表貼付枚数欄記載のとおり、ポスター一枚にシール一枚ないし三枚宛を貼付したこと、

(二)  本件各ポスターは、ほぼ原審認定のとおり、

(1)  縦約58.5センチメートル、横約41.5センチメートルで、下方より順次、幅約三メートルの横帯状白地部分に赤字で「赤旗」の文字のほか赤旗の宣伝文、購読料等の文言が、その上の幅約三センチメートルの横帯状白地部分に黒字で横書に「とき6月8日(水)午後6時ところ千代田公会堂」と、更にその上部幅約6.8センチメートルの横帯状黄色地部分に茶色字で横書に「日本共産党演説会」の各記載があるほかは、右ポスター紙面の四分の三以上を占める縦約45.5センチメートル、横約41.5センチメートルの部分一杯に宮本顕治の肖像カラー写真が印刷され、その右端上方に縦約一九センチメートル、横約1.5センチメートルの範囲内で縦書に黒字で「日本共産党幹部会委員長」と、右方上端に縦約1.6センチメートル、横約12.4センチメートルの横帯状黄色地部分に黒字で横書に小さく「弁士」と各印刷されているほかは、右肖像写真の右方縦約三八センチメートル、横約一〇センチメートルの範囲内一杯に朱色字で縦書に大きく「宮本顕治」と印刷されているもの(以下Aポスターという。)、

(2)  縦約59.5センチメートル、横約42.1センチメートルのもので、下端の幅約3.2センチメートルの横帯状青色地部分に白又は黄色字で横書に「とき6月15日(水)午後六時半ところ大田区体育館」と、右端部の縦約49.5センチメートル、横約7.9センチメートルの縦帯状赤色地部分に白字抜きで縦書に「日本共産党大演説会」と、ポスター上部の幅約6.3センチメートルの横帯状白地部分に緑色字で「くらしよい東京・明るい日本を」と、ポスター左端部横約四センチメートル、縦約49.5センチメートルの範囲内に黒字で縦書に「東京都知事美濃部亮吉 党中央委員会議長・参議院議員野坂参三 党書記局長・衆議院議員不破哲三 党副委員長・参議院議員上田耕一郎」(但し、右各肩書は氏名の右肩部分にいずれも小さく)とポスターの周縁に各印刷されているほかは、右ポスターのほぼ中央部で、ポスター紙面のほぼ五分の三を占める縦約五〇センチメートル、横約二九センチメートルの部分の上方に、各横約12.3センチメートル、縦約15.2センチメートルの官本顕治及びさかき利夫の各肖像カラー写真を並べて印刷し、その各写真の下方縦約三四センチメートル、横約12.3センチメートルの各範囲内一杯に、青色字で縦書に大きくそれぞれ「宮本顕治」「さかき利夫」と、そして右各氏名の右肩部に黒字で縦書に小さくそれぞれ「党幹部会委員長」「党理論委員長知識人・文化・教員委員長」と各印刷されているもの(以下Bポスターという。)の二種類であること、

(三)  被告人らが本件各ポスターに貼付した前記シールは、縦約一八センチメートル、横約七センチメートルのミラーコート紙系のタツク紙の表面に、「殺人者」もしくは「人殺し」という文字を黒色で印刷したもの及び縦約一六センチメートル、横約三センチメートルの上質なタツク紙の表面に、「宮本顕治は殺人者」という文字をスタンプを用いて赤字で押捺したもので、そのいずれのシールにも裏面に強力な粘着力を有する接着剤が塗付されているところ、被告人らは、これらの各シールを、前記Aポスターについては、主として宮本顕治の肖像写真の顔の下方部から着衣の背広部分にかけて貼付し、また、Bポスターについては、主として宮本顕治及びさかき利夫の各肖像写真の下方に印刷された同人らの氏名の部分に貼付し、その結果、右各シールを本件各ポスターから除去しようとしても、ポスターを破損することなしには、容易に剥離しがたい状態を現出させたことが、それぞれ認められる。

そして、以上認定の事実によれば、日本共産党が街頭に掲示した本件各ポスターに、前記各シールを前示のように貼付した被告人らの所為は、右ポスターを見る者をして、同党幹部会委員長宮本顕治が殺人者であるとの印象を与えるに十分であり、これにより、同党において、その所有にかかる本件各ポスターを爾後そのまま街頭に掲示しておくことができない状態を生じさせたと認められるから、被告人らの本件行為は本件各ポスターの本来の効用を著しく害したものと解せられ、従つて、右所為は刑法二六一条の器物損壊罪にいう物を「損壊」する行為というに足りるものといわざるをえない。

しかしながら、原判決は、本件各ポスターが公選法一四三条及び一二九条に違反して掲示されたものであるから、刑法二六一条の保護の対象とは認められない旨判示しているので、先ず、本件各ポスターの掲示が公選法の右各法条に違反するものであるか否かについて考察するに、公選法一四三条一項にいう選挙運動のために使用する文書とは、当該文書の外形内容自体からみて選挙運動のために使用すると推知されうる文書に限られることは、右条項の法文を、これと関連する同法一四六条等の各条項の法文と、対比検討すれば明らかであり、従つて、当該文書の外形内容自体からみて選挙運動に使用すると推知されえない文書は、たとえそれが現実に選挙運動のために使用されたとしても、同法の他の条項にあたるのは格別として、同法一四三条一項にいう「選挙運動のために使用する文書」にはあたらないと解すべきことは、同法一四二条一項におけると同一である(同法一四二条一項につき、最高裁判所昭和三六年三月一七日第二小法廷判決(刑集一五巻三号三九七頁)参照)というべきところ、本件の対象となる前示各ポスターの外形内容を一覧すれば、Aポスターにおいては宮本顕治を、Bポスターにおいては同人、さかき利夫、美濃部亮吉、野坂参三、不破哲三及び上田耕一郎をそれぞれ弁士とする趣旨の、日本共産党の演説会の開催を宣伝告知するポスターであることが明らかであつて、その外形内容からみて、選挙運動のために使用する文書であることを推知するに足りる根拠は見出し難い。原判決が本件各ポスターを公選法一四三条違反の文書と認定した根拠については、その判文上必ずしも明確でないが、右ポスターの掲示が同法一二九条違反にあたることと合わせて説示するところをみると、前記選挙の立候補予定者でもある宮本顕治らの肖像及び氏名を、他の記載部分に比して、ことさらに大きく印刷表示しているとの指摘がこれに該ると考えられる。しかし、演説会の中心は弁士であり、また、弁士が多数予定されている場合に、その間にも中心になる弁士があることは十分考えられるところであるから、演説会開催の宣伝告知のための本件各ポスターにおいて、Aポスターについては唯一の弁士である宮本顕治の肖像、氏名を、また、Bポスターについては、右演説会の中心になる弁士と思われる同人及びさかき利夫の各肖像、氏名を、それぞれ特に大きく印刷表示しているからといつて、右ポスターの前段認定の表示の外形内容では、それだけの根拠で、本件各ポスターが、その外形内容から公選法一四三条に違反する、選挙運動のために使用する文書にあたると断定するには足りない。

ところで、その外形内容において選挙運動のために使用される文書にあたらない文書でも、それが選挙運動期間中であれば、その掲示が公選法一四三条の禁止を免れる行為として、同法一四六条の禁止に触れる場合が考えられるが、当該選挙の運動期間前であつた本件においては、この点は問題外というべきは勿論である。しかし、選挙運動の期間前における選挙運動、いわゆる事前運動は、同法一二九条によつて禁止されているところであるから、もし、本件各ポスターが、その外形内容の点では仮りに違法な点がないとしても、掲示の時期、方法等に照らして、演説会開催の宣伝告知に名を借り、立候補予定者の知名度を高め、投票を得る目的をもつて掲示されたものであることが認められるならば、本件各ポスターの掲示は公選法一二九条が禁止するいわゆる事前運動にあたり、右ポスターは右事前運動禁止違反の犯罪行為の供用物件と解される余地がある。そして、原判決は本件各ポスターの掲示が右法条に違反し、事前運動にあたると判断しているので、記録及び証拠物等に基づき、右掲示の時期、方法等の点から以下これを検討する。

本件に関係する選挙、すなわち第一一回参議院議員通常選挙は、その公示が昭和五二年六月中旬、選挙施行日が同年七月上旬という日程で、行なわれるということは、早くから一般人の周知するところであり、これに備え、日本共産党においては、それまで参議院議員であつた同党中央委員会議長野坂参三に代えて、同党幹部会委員長の宮本顕治を右選挙の全国区候補者として、東京都を選挙地域として立候補させ、榊(さかき)利夫を東京地方区の候補者として立候補させることを決定し、これらの情報は新聞紙上等で報道され、既にほぼ世間周知の事実となつていた情勢下において、前記選挙の告示を真近に控えた時期に、中には演説会開催の一か月以上も前から、その選挙区である東京都内の多数の場所に、本件各ポスターを含む多数の同一外形内容のポスターが掲示された状況が認められる。そして、以上の状況に加えて、本件各ポスターには、右各立候補予定者らの肖像、氏名が、他の記載部分に比してことさらに大きく印刷表示されていることなどを考え合わせると、右ポスターの掲示が、日本共産党において、同党の右選挙における前記立候補予定者の容貌、氏名を、その選挙区である東京都内の一般有権者に周知させ、その知名度を高めることにより、同人らに投票を得させるにつき有利な効果をあげることを意図して、行なつたものではないかという疑いは一応考えられる。しかし、本件各ポスターは、日本共産党の演説会開催の宣伝告知用ポスターとしての外形内容を備えていることは、前段説示のとおりであるとともに、右ポスターによつて宣伝告知された前記演説会が、その記載の日時、場所において開催された事実も、証拠上明らかであるばかりでなく、他方において、公選法は議会制民主主義の健全な発達を図るため、政党等が、その政治活動として行なう政談演説会の開催は、参議院議員の通常選挙については、選挙運動期間前は全く自由であることを宣言している(同法二〇一条の六参照)ことを考慮すると、たとえ、本件各ポスターの掲示については、前示のように、前記立候補予定者らに投票を得させるにつき有利な効果をあげる意図があつた疑いが一応考えられるとともに、原判決のいうように、右ポスターは、一方において日本共産党の演説会開催の宣伝告知の効用を有すると同時に、他方において選挙運動を目的とした効用を併せ有するものであると理解するとしても、それだからといつて、右演説会開催の宣伝告知のポスターの掲示を事前運動として処罰することになると、前記公選法の宣明する、政党等の政治活動自由の原則に背馳する恣意的な取締を許すことになる危険があり、政党の演説会の開催を宣伝告知するポスターとしての外形内容を整えた本件各ポスターの掲示行為に、果して現行の公選法の建前の下で、いわゆる事前運動禁止規定に違反するとして問責するに足りる程の違法性を帯有するといえるかどうか疑わしい。従つて、本件ポスターの掲示が事前運動にあたるという原判決の判断についても、また疑問がある。

のみならず、仮に、原判決のいうように、本件各ポスターが、立候補予定者の肖像、氏名を、他の記載部分に比して、ことさらに大きく印刷表示していることから、公選法一四三条違反の文書であり、右ポスターの掲示は、違法な選挙運動を目的とする効用が含まれているから、同法一二九条に違反する行為であつて、右ポスターはその事前運動の犯行の供用物件であると考えるとしても、そもそも公選法によつて規定された各種の選挙運動に関する禁止は、公職に関する選挙が公明かつ適正に行なわれることを確保する目的以上には出ないものであるところ、右ポスターは右禁止規定に違反する文書であるとともに、禁止違反行為の用に供された物件であるとされるにとどまるものであるから、同法に規定する選挙の自由妨害罪の保護の対象とならないというだけならば格別、原判決がいうように、それだけの理由で、本件各ポスターがその効用に関連して直ちに刑法による器物損壊罪の保護の対象にもならないというのは、甚だ疑問といわざるをえない。すなわち、公選法上の選挙運動に対する禁止規定の目的が、前示のとおり、選挙の公明、適正な推進にあるのに対し、刑法の器物損壊罪は、同法二五八条ないし二六〇条に定める公文書等を除く、その余のすべての物件にわたり、広く個人の財産権の目的となりうる一切の物を保護することを目的とし、両者はそれぞれ保護法益を異にすることを認識する必要がある。そのうえ、本件各ポスターについては、仮にこれが公選法一四三条違反の文書で、その掲示が同法一二九条違反にあたり、全体として同法違反の文書であるとの、原判決の判断を前提としても、右ポスターは、同法一四三条違反の点については、せいぜい立候補予定者の肖像と氏名が、他の部分に比べてことさらに大きく印刷表示されているという程度の問題であり、同法一二九条違反の点についても、原判決は右ポスターが演説会開催の宣伝告知の効用を有することを認めたうえで、なおその掲示の時期、方法等から考えて、事前運動の意図が推知されるという程度の違法であることが明らかであつてみれば、原判決の説示するところ、すなわち、その違法は選挙の公平、平等と公正を甚しく阻害するものと認められ、このような違法に掲示されたポスターの効用を公選法上は勿論のこと、かかる違法な効用を刑法二六一条の器物損壊罪における保護の対象に値するとみることは困難であるというのは、なおさら疑問というべきである。従つて、本件各ポスターの掲示に仮りに原判決のいうような違法があつたとしても、右ポスターがなお刑法二六一条の器物損壊罪の保護の対象となると解すべきことは明らかである。

それ故、原判決が本件各ポスターの掲示について、その公選法上の違法な効用に関連して、右ポスターは刑法二六一条の器物損壊罪における保護の対象に値しないとなし、右ポスターに「殺人者」等のシールを貼付した被告人両名の本件行為は、これを右法条にいう器物の効用を滅却したものとして処罰することはできないと解すべきであるから、被告人らの右所為は、結局、暴力行為等処罰に関する法律一条、刑法二六一条に該当せず、罪とならないとして、被告人両名に対し無罪の言渡をしたのは、右法条の解釈、適用を誤つたものというべきであり、この誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。

よつて、刑訴法三九七条一項、三八〇条により原判決を破棄したうえ、同法四〇〇条但書に従い、当裁判所において次のとおり判決をする。

(罪となるべき事実)

被告人両名は、共同して、昭和五二年六月五日、別紙一覧表記載のとおり、東京都中野区江古田一丁目一二番二号先路上ほか二一か所において、同区江古田一丁目一二番二号本山寅蔵方掲示板ほか二一か所に掲示されていた日本共産党所有にかかる縦約六〇センチメートル、横約四二センチメートルの日本共産党演説会告知用ポスター合計二四枚の各同党幹部会委員長宮本顕治の肖像写真の顔の周辺や氏名の文字の上の部分などに、それぞれ「殺人者」もしくは「人殺し」と黒色で印刷された縦約一八センチメートル、横約七センチメートルの糊つきシール、又は「宮本顕治は殺人者」と赤色で押捺された縦約一六センチメートル、横約三センチメートルの糊つきシール合計四六枚を、同別表記載のとおり、ポスター一枚につきシール一枚ないし三枚ずつ貼りつけ、これを見る者に右宮本が殺人者であるとの印象を与えることによつて、爾後右各ポスターを掲示しておくことができない状態にさせて、その効用を滅却し、もつて、数人共同して、器物を損壊したものである。

(証拠の標目)〈省略〉

(法令の適用)

被告人両名の判示各所為は、いずれも包括して暴力行為等処罰に関する法律一条(刑法二六一条)違反の各一罪と解すべきであるから、それぞれ同法同条、罰金等臨時措置法三条一項二号を適用したうえ、所定刑中、いずれも懲役刑を選択し、被告人前田産雄については、右の罪と前記確定裁判のあつた罪とは刑法四五条後段の併合罪の関係にあるから、同法五〇条によりまだ裁判を経ていない判示の罪につきさらに処断することとし、それぞれ所定刑期範囲内で、被告人前田産雄を懲役六月に、被告人岩脇敏夫を懲役四月に各処するが、被告人両名につき、情状によりいずれも同法二五条一項を適用して、この裁判の確定した日から被告人前田に対しては三年間、被告人岩脇に対しては二年間、それぞれその刑の執行を猶予することとして、主文のとおり判決する。

(四ツ谷巌 杉浦龍二郎 阿蘇成人)

別紙一覧表〈略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例